画家
木村 小百合
TOKYO METROPOLITAN ART MUSEUM
東京都美術館
「ベストセレクション 美術 2013」
出品作家インタビュー(第5回)
2013年5月4日(土・祝)~5月27日(水)に行われた全国の主要な公募団体の中から選出された27の美術団体による合同展覧会。151名の作家の作品を一堂に展示し、美術公募団体の旬が集結しました。27の参加団体のうち、3~4月に東京都美術館で公募展を開催した団体から4名の作家がインタビューされ、ここでは木村小百合氏のインタビューの様子を掲載しています。
■聞き手・文章:とびラー 小野寺伸二
2013/5/26
独立美術協会に入ったきっかけ
——今回「ベストセレクション 美術 2013」展への参加を推薦されてのご感想は?
去年、会員に推挙していただいたばかりなので、新会員の立場で出品していいのか 一瞬不安で、『私で大丈夫なんですか』と事務局の先生にお尋ねしたところ、
『“独立”はベテラン作家2名と新会員2名ということで選出しているので、心配しなくて大丈夫ですよ。新会員として、今回のような展覧会に選ばれるのは光栄なことなんですよ』ということでしたので、それならと喜んでお引き受けしました。
木村小百合さん(独立美術協会)

——独立美術協会に参加するようになったきっかけは?
公募展に出そうと思って描いた作品の完成した時期が、“独立”の搬入時期と重なっていて、独立展は以前にも観に行ったことがあり
骨太な作品が多くて感動していたので、それならダメモトで出してみようかなと思って出品したのがきっかけでした。
——制作時期とのタイミングが合ったのが独立美術協会だったんですね。
最初は入選したのですが、2年目は落選でした。それでも繰り返し出品しているうちに「“独立”愛」みたいなものにも目覚めてきました。
——独立美術協会に入ってからどのくらいになるんですか?
ちょっと休んでいる時期もあったのですが、27~28年になります。
——では、結果的に独立美術協会はご自分に合っていたということでしょうか?
自分の力量はともかく、“独立”に出品されている先生方の絵は濃いんです。迫力がすごいんですね。ひとつ展覧会を観ると、ぐったりして疲れてしまうくらい作家のエネルギーや、魂の入れ方がすごくて、それが見応えがあっていいなぁと思ったんです。さらっと観て終わらないところがいいなぁと。
「ベストセレクション 美術 2013」出品作《どこから?》

《どこから?》 2012年 油彩・アクリル、カンヴァス
——それでは木村さんの作品についてお伺いしますが、制作にあたってテーマは何かありますか?
はい。特にエンジンの力強さと人間の持っている生命力の強さのぶつかり合いをテーマにしています。この両者はどちらも負けないくらい強く、パワーに満ち溢れています。この感動を画面に表現したく克明にその相克を描きたいと思っています。人間とマシンとのエネルギーのせめぎ合いみたいなものでしょうか。つまり産業革命以来、機械と人間はそのはざまで格闘を繰り返してきました。人間性が機械に支配されるか、または機械を使いこなせるかが私のテーマです。しかし、その両者は実は別々の対立するものではなく、ほとばしるエネルギーとして根本は同じであると思います。
《どこから?》 2012年 油彩・アクリル、カンヴァス
——絵に登場する人物の手や足が、飛び出してくるように拡大されて描かれていますね。
まず、小さいエスキース(試作のための下絵)を描くのですが、作品の大きさに拡大すると、思っているほど迫力がないんです。そこで、そこからまた不自然なまでに手や足を拡大して描くんです。3Dを意識したりもしますし、エスキースも何度も描き直します。
——過去の作品と比べると、拡大されている部分が、どんどん大きくなっている印象があるんですが。
そうですね。やっぱりもっと、やっぱりもっと、と大きくしている感じです。それでも美術館に並べると、あまり大きさを感じなくなってしまうんですが、これでも足のサイズは130センチくらいあるんです(笑)。


右:木村小百合さん 左:とびラー 小野寺
——足が裸足だというのも特徴的だと思うのですが。
足の裏の皺とか明暗を克明に描き込みたいというのがあって。そこが面白いというか。モデルはうちの姪なんですが、バレエをやっているので、足がグッと曲がるんです。それをグッと押さえつけて、ハロゲンランプを当てて、写真を撮ります。足の裏により皺が寄るようにして、逆光で撮るんです。その皺とか、逆光でできる強い影を克明に描くことにこだわっています。これだけ大きい足なので、ただそのまま描くと面白くなくなってしまうんです。だから、大きな足に負けないように思いっきり描くことを心がけています。
——今回の出品作を描くにあたって苦労した点は?
やっぱり、拡大した部分のデフォルメですね。拡大した中で、さらにここを拡大しようとか、指はもっと太くしようとか、何回も拡大して描いたとか、作業的にはその辺ですね。
肉体的には、点描で描いている部分も多いせいか、肩こりと腕のしびれがすごいんです。整体に行くのですが、絶えずしびれてしまって。だから、途中からキャンバスからパネルに張り替えて、テーブルの上に置いて描くんです。そうすると、中央部には手が届かないので、今度は床に置いて、日本画の方がやるように作品の上に木を渡し、その上に正座して描くんですよ。すると、手は楽なんですけど、次は腰に来るんですよね。だから、最後はパネルの上に板を置いて寝ころがって、クッションを抱えてうつ伏せになって、ひたすら点を打ち続けました。そうすると今度は首に来ますけど(笑)。1週間ごとに体勢を変えて描くんです。
そうやって朝4時くらいまで点描を打っていて、ふと窓に映った自分の姿を見て、こんな人生でいいのかなぁと思うこともあります(笑)。夜中じゅう点描で足の裏を描いているのって変かなって、我に返るときがあります。このような私そのものの姿が鏡のように画面に写し出され、エイッとばかり足が空中に飛び出しています(笑)。
——そんな描き方をして、よく大きな手や足のバランスを崩さないで描くことが出来ますね。
最後は力を振り絞って、また絵を立てて、整体に行って、栄養ドリンクを飲んで(笑)、立てた状態で描ききるんです。やっぱり、寝かせたまま描いているとバランスが崩れているので。栄養ドリンクに使う金額もだんだん上がっていくんです。
——仕上げの時期の迫力が伝わって来ますね(笑)。制作時間はどのくらいかかりますか?
朝から夜まで、あらゆる時間を削って、毎日描いて3か月です。エスキースはその前に描いたこの作品はトータルすると、半年近くかかっているかも。地塗りを始めて3か月です。朝も昼も夜中も描ける時は描いてそれくらいかかります。
「ベストセレクション 美術 2013」
出品作家インタビュー(第6回)
■聞き手・文章:とびラー 小野寺伸二
第6回では独立美術協会に入ったきっかけ、そして本展の出品作品の制作方法のお話を中心にご紹介しました。今回は描かれた女性像について、迫力のあるものが好きな理由などのお話をご紹介します。

《どこから?》 2012年 油彩・アクリル、カンヴァス

第79回独立展(2011年)出品作 《どこから?》

——以前の作品と比べると、だんだん使われている色が少なくなっているようですが?
色を絞り込んだ方が迫力が出てくるというか、色があると色に頼ってしまって、伝えたいものがバラけていたんです。モノクロに近づけたことで、自分の描きたいもの伝えたいものが絞り込めてきたという感じなんですね。もともと、モノクロで描いて、最後に色を足すつもりだったんですが、このくらいでもいいやって感じになって、次からは計算してモノクロで行こうということになりました。
——今回の出品作には女性が描かれていますが?
独立展は3点ずつ出品することになっているのですが、そこに初めて女性を描いたとき評判が良かったので、今回も女性にしてみました。力強い女性という現代性を込めて描いています。
——ちょっとセクシーなコスチュームを付けていますね?
実は別の作品で女性を描いたとき、下着を付けているかどうか曖昧な感じの絵だったんです。それを見た人に『これはきっと男性にウケるためにこういった絵を描いたのでしょう』って言われたんですが、そういうつもりもなかったのに、言われたからといって今度はお尻を隠して描くというのもしゃくだから、そこを変えずに描いた上で、それ以上にもっと別のところを凄いと言われるくらいに描いてやろうと思いました。
幼稚園のころから迫力のあるものに魅かれた
——絵のどのあたりから描き始めるのですか?
ハーレーダビットソンのパーツあたりでしょうか。そのあたりは機械的な作業なので淡々と描いています。人物、特に手や足の拡大した部分は思い入れも深く、最後の最後まで描き込んでいますね。絵に額を付けた後でも描いていたりします。
——もともと、このような作風だったのですか?
以前は仏頭を描いていました。京都に住んでいるので、仏像を見る機会が多いんですよ。私は京都の仏像より奈良の仏像に惹かれます。京都の仏像は貴族文化できれいなんですよ、金箔が貼ってあったりして、宗教的で装飾的な感じがします。それに対して奈良の仏像は、乾漆も木彫も仏師の思い入れみたいなものが入っているような気がします。シルクロードからや大陸の影響もあってデフォルメもあり得ないような感じがして面白いんですよ。心惹かれる仏像は色々ありますが特に運慶が好きです。金剛力士像とか、肌のハリ感やデフォルメがあって、実際にはないほど、関節が曲がっているような関節外し技を使っていたり(笑)。バイクシリーズの前は仏頭にパーツが刺さっているような絵を描いていました。
——迫力のあるものがお好きなようですね。何か理由があるのでしょうか?
子供の頃に北野天満宮の近くに住んでいて、天満宮を通って幼稚園に行っていたんですけど、その社務所にたくさん絵馬がかかっていて、それに武者が馬に乗っている絵が描かれていました。それがとても好きだったんです。
——だから、馬の代りにハーレーを描いていらっしゃるのかもしれませんね。
そう言われるとそうかもしれません。現代的なものを描いているんだけど、実は手足のデフォルメは運慶の仏像や武者絵から影響を受けていたりするのかもしれませんね。
——他に影響を受けた芸術家はいますか?
学生の頃ジョット(中世後期のイタリア人画家)が好きで、イタリアに行った時に実際に壁画を見た時は鳥肌が立ちました。固さの中に詰まっているエネルギーや目力のようなものを感じました。あとは京都に住んでいるので、光琳や宗達を観る機会は多いんです。それらも、デフォルメされていたり、デザイン化されていて強いところがあるじゃないですか。そんなところも好きですね。
——今回の作品の出来に関してはどう思いますか?
これでいいとは思わないけれど、これが今もっている私の精一杯というところまでは描きました。独立展から「色紙に絵を描いてください」と言われたんですけど、エネルギーが残っていないというか、絞ったチューブのように出し切ったから、その色紙も描けませんでした(笑)。
——作品のどのようなところを観てもらいたいですか?
そうですね、やっぱり描き込みですかね。今は、パソコン使ったり、プロジェクター使ったり、転写したりというのがありますけど、私はすごいアナログで、一から点描を重ねて描いているので、そのアナログ感を観てほしいと思いますね。全体だけでなく、近くに寄って観てほしいです。
——今後の活動について何か教えていただけますか?
次は今年の秋の独立展向けに200号の作品を予定していて、4~5日くらい前からエスキースを制作し始めています。大きくなるので気力も体力も必要だと思うんですけど、しばらくは今の仕事量で、手抜きすることなく、体力の続く限り、このテーマでやっていきたいと思っています。女性が主体で、ちょっと男性も登場する予定です。
——最後に、東京都美術館についての印象を教えてください。
昔は独立展の会場はいつも東京都美術館だったんです。だから、独立展がここで開催されなくなる(現在は、国立新美術館で開催)のはすごく寂しかったんです。初入選から何十年もここだったし、初受賞もここだったので。だから、「なんでトビカンでなくなるの~」って(笑)。別に新しい所が悪いわけではないんですが、絵の前にずっと立って批評受けていたのもここだから、思い出深い場所なんです。
——では、今回の「ベストセレクション 美術 2013」展への参加は里帰りと言えるかもしれませんね。
そうですね。
〜インタビューを終えて〜
最初から最後まで明るく朗らかに語ってくれた木村さんでしたが作品制作中は
「最後は、しんどい、しんどい、しんどいで、とても他人様にはお会いできない状態で、
サポーター巻いて、湿布貼って、整体行って、栄養ドリンク飲んで。
それを人に話すと『それは、おっさんやないか』と言われます(笑)」という状態なのだそうです。
そんな、時間とエネルギーを絞り出すようにして生み出された作品の持つ迫力を
ぜひ本物の作品を目の前にして味わっていただければと思います。〔とびラー・小野寺伸二〕